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宇都宮地方裁判所 昭和36年(ワ)16号 判決 1961年11月10日

原告 小島勇四郎

被告 林栄宣 外二名

主文

一、被告等は連帯して原告に対し金一七一、一七一円及びこれに対する昭和三四年一二月一六日より支払ずみに至るまで年三割六分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は全部被告等の負担とする。

四、原告が被告等のため各金三〇、〇〇〇円の担保を供するときは、当該被告に対して第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は連帯して原告に対し金一八〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年一二月一六日より支払ずみに至るまで年三割六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

原告は貸金業者であるが、被告林栄宣に対し昭和三四年九月一五日金一八〇、〇〇〇円を弁済期同年一二月一五日、利息月三分、期限後の損害金日歩三〇銭の約で貸与し、同時に被告相馬大輔及び被告相馬寅松は右債務につき連帯保証をしたところ、被告林は昭和三四年九月一五日より同年一二月一五日までの利息金一六、二〇〇円を支払つただけで、その余の支払をしないので、被告等に対し連帯して貸金一八〇、〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日の同年一二月一六日より支払ずみに至るまで約定の賠償額の予定の範囲内である年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだと述べ。

なお、原告は被告林に対して金一八〇、〇〇〇円を現実に交付した後、その場で被告林から昭和三四年九月一五日より同年一二月一五日までの利息金一六、二〇〇円を受領したが、それはいわゆる天引の概念には含まれないと附陳し、

被告等の主張に対し被告等の主張事実は否認すると述べた。

被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、

請求原因事実は否認する。

被告林は、昭和三四年五月頃原告と共同してメリヤス製造業を始めることになつて被告林において技術と機械とを提供し、原告は工場と必要経費とを提供して右共同事業から生ずる利益金を被告林が六分、原告が四分の割合で分配する旨の契約を締結した。そこで栃木県芳賀郡下高根沢村大字青木所在の黒崎重一方の納屋を借り受け、これを改造して工場となし右共同事業を開始したが、右事業に従事する工員の指導期間中は利益があがらないので被告林はその生活資金として原告から金一六〇、〇〇〇円を借り受け、右金員は被告林が受けるべき右共同事業から生ずる利益分配金をもつて支払う旨を約したのである。甲第一号証(借用証書)は原告の印刷物に適宜記入したものであつてその記載は真実に反するものであると述べ、更に予備的に抗弁として、

仮りに原、被告の共同事業から生ずる利益分配金をもつて支払う旨の被告の右主張が理由がないとしても、その後右共同事業は漸次軌道に乗り、昭和三五年一月より工員も九名を使用し、被告林の得意先(被告林は別に現住所においてメリヤス業を経営)を右工場に廻わしその収益は月額金五〇、〇〇〇円位をあげるに至つているにも拘らず原告は前記約定による利益分配金の支払をしないから、被告林は原告に対して昭和三五年一月より六月までの利益金月額五〇、〇〇〇円位合計金三〇〇、〇〇〇円位に対する六分の割合による配当金債権を有する。そこで被告林は本件昭和三六年四月一七日の口頭弁論期日において右債権をもつて本訴請求債権額に充つるまで相殺する旨の意思表示をしたから、本訴請求は理由がないと述べた。

証拠関係

原告訴訟代理人は、甲第一号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。

被告等訴訟代理人は、証人黒崎重一、同林静の各証言及び被告林本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立は認めると述べた。

理由

成立に争いのない甲第一号証(借用証書)並びに証人黒崎重一の証言及び原告本人の供述を綜合すると、原告、被告林間において昭和三四年九月一五日金一八〇、〇〇〇円を弁済期同年一二月一五日、利息月三分、期限後の損害金日歩三〇銭で貸与する旨の契約が締結され、原告は金一八〇、〇〇〇円を被告林に交付したが、その場で直ちに被告林から月三分の割合による右貸付日から同年一二月一五日までの三箇月分の利息金一六、二〇〇円を受領したこと並びに同時に被告相馬大輔、同相馬寅松が被告林の右債務につき連帯保証したことが認められる。被告等は、甲第一号証の借用証書の記載は真実に反し実は、被告林と原告間において共同してメリヤス製造業を始め、右事業から生ずる利益金は被告林が六分、原告が四分の割合で各分配する旨を約束したうえ、被告林が受けるべき右六分の割合による配当金をもつて順次被告の借受金一六〇、〇〇〇円の弁済に充当する約束であつた旨主張し、証人黒崎重一の証言及び原告本人の供述を綜合すれば、昭和三四年一〇月頃(もつともその日時の正確な点は不明)原告が芳賀郡下高根沢村大字青木所在の黒崎重一方の納屋を借り受け、改造のうえ工場としてメリヤス製造業を始めたこと、その際被告林がメリヤス編機械一一台位を右工場に持参して原告をして使用せしめたこと及び被告林がメリヤス編指導のため数回同工場を訪れたことをそれぞれ認めることができるが、右のことから直ちに右メリヤス製造業について原告と被告林間に共同経営の合意が成立していたとは認め難く、証人林静の証言並びに被告林本人の供述中被告等の主張に符合する部分はにわかに措信し難いので、被告等主張の共同経営の事実従つて又利益金分配の約定の事実を認めて前記認定を覆すに足りる証拠がないということに帰する。

ところで前記の事実関係によれば貸主から一応契約額全額一八〇、〇〇〇円を借主に交付し、その場で直ちに前払利息一六、二〇〇円を借主から貸主に交付する場合、貸付額全額について現実の授受があつたのであるからいわゆる天引ではないという理窟も一応立つと思うが特段の事情のない限り(本件においては特段の事由は認められない)右は経済的優位にある貸主が、その強制力をもつて弱者たる借主をして天引でないが如き形をとらせたに過ぎないというべきであるから、利息制限法第二条にいう「利息を天引した場合」には是くの如き場合をも包含するものと解するのが同法の精神に合致するところといわなければならない。

すると、右利息金一六、二〇〇円が被告林の受領金額一六三、八〇〇円に対する利息制限法所定の年一割八分の割合による三箇月分の金員七、三七一円を超過する部分すなわち金八八二九円は元本の支払に充てたものとみなすべきであるから、金一八〇、〇〇〇円から右元本の支払に充てたものとみなすべき金員を控除した金一七一、一七一円が元金となる。しかして被告等が右金員の支払をなしたことを認めるに足りる証拠はないから、被告等は連帯して原告に対し金一七一、一七一円及びこれに対する履行遅滞に陥つた昭和三四年一二月一六日より支払ずみに至るまで約定の賠償額の予定の範囲内である年三割六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきである。

そこで更に被告等の相殺の抗弁について判断するに前記説明のとおり原告、被告林間に被告等主張の如きメリヤス製造の共同経営のあつた事実はこれを認めるに足る証拠がないから、被告等の相殺の抗弁は採用することが出来ない。

よつて原告の請求は主文第一項掲記の限度において正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項本文、仮執行につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内田初太郎)

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